企業のメンタルヘルス対策

近年、経済・産業構造が変化する中で、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなっています。

メンタルヘルス不調で退職した労働者がいる事業所は5.9%

厚生労働省の2022年「労働安全衛生調査(実態調査)」結果によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1カ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.6%で、前年に比べ1.8ポイント上昇しました。

また、メンタルヘルス不調により退職した労働者がいた事業所は5.9%(同1.8ポイント上昇)、メンタルヘルス不調により休業または退職した労働者がいた事業所の割合は13.3%(同3.2ポイント上昇)になっています。

8割超の労働者が仕事や職業生活で強いストレスを感じる

また、業務による心理的負荷を原因として精神障害を発症し、あるいは自殺したとして労災認定が行われる事案が近年増加し、社会的にも関心を集めています。

労働者に対する「個人調査」の結果によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある人は82.2%となっています。

ストレスの内容(主なもの3つ以内)をみると、「仕事の量」が36.3%で最も割合が高く、以下「仕事の失敗、責任の発生等」が35.9%、「仕事の質」が27.1%、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が26.2%などとなっています。


このため、事業場において、より積極的に心の健康の保持増進を図ることが重要な課題となっています。

*参考:厚生労働省「職場における心の健康づくり」

1)休職・離職率の低下

ストレスやうつ病などのメンタルヘルスの問題は、従業員が職を離れる主な原因の一つです。適切なメンタルヘルス対策を行うことで、従業員の満足度が高まり、離職率を低下させることができます。

2)従業員の生産性向上 

メンタルヘルスが良好な状態にある従業員は、ストレスが少なく、集中力が高まります。これにより、仕事の効率が上がり、生産性が向上します。

3)ブランドイメージの向上

メンタルヘルスへの取り組みは、社会的責任を果たしているというポジティブなイメージを構築し、企業の評判を高めることにつながります。

事業者は、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」 やストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。

※参考:厚生労働省「職場における心の健康づくり」~労働者の心の健康の保持増進のための指針~

また、その実施に当たっては、以下の3つのステップが円滑に行われるようにする必要があります。

  • 「一次予防」:ストレスチェック制度の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に防止する
  • 「二次予防」:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
  • 「三次予防」:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う

さらに、メンタルヘルスケアを推進するに当たっては、次の事項に留意する必要があります。

  • 心の健康問題の特性
  • 労働者の個人情報の保護への配慮
  • 人事労務管理との関係
  • 家庭・個人生活等の職場以外の問題

 メンタルヘルスケアは、中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要で、また、その推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聞きつつ事業場の実態に則した取組みを行うことが必要です。
 このため衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」を策定することが必要です。

「心の健康づくり計画」に盛り込む事項

事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
労働者の健康情報の保護に関すること
心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要です。

1)セルフケア

事業者は労働者に対して、次に示すセルフケアが行えるように教育研修、情報提供を行うなどの支援をすることが重要です。
また、管理監督者にとってもセルフケアは重要であり、事業者はセルフケアの対象として管理監督者も含めましょう。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
・ストレスへの対処

2)ラインによるケア

・「いつもと違う」部下の把握と対応

ラインによるケアで大切なのは、管理監督者が「いつもと違う」部下に早く気付くことです。「いつもと違う」という感じをもつのは、部下がそれまでに示してきた行動様式からズレた行動をするからです。それまで遅刻をしたことなどなかった部下が遅刻を繰り返したり、無断欠勤をしたりするようになった状態です。その例を次に示しました。速やかな気付きのためには、日頃から部下に関心を持って接しておき、いつもの行動様式や人間関係の持ち方について知っておくことが必要です

・部下からの相談への対応

職場の管理監督者は、日常的に、部下からの自発的な相談に対応するよう努めなければなりません。
そのためには、部下が上司に相談しやすい環境や雰囲気を整えることが必要です。また、長時間労働等により過労状態にある部下、強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した部下、特に個別の配慮が必要と思われる部下に対しては、管理監督者から声をかけるとともに、以下の対応も必要です。
○ 話を聴く(積極的傾聴)
○ 適切な情報を提供する
○ 必要に応じて事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すなど

・メンタルヘルス不調の部下の職場復帰への支援

管理監督者が「復職した以上きちんと仕事をしてほしい」と考えることは、気持ちとしては自然です。けれども、数箇月にわたって休業していた人に、いきなり発病前と同じ質、量の仕事を期待するのは無理であることも明らかです。復職者は、「職場では自分はどう思われているのだろうか」「職場にうまく適応できるだろうか」「病気がまた悪くなるのではないだろうか」など、様々な心配をしながら出社しています。そうした復職者の気持ちを受け止めることが、管理監督者には望まれます。

・職場環境等の改善を通じたストレスの軽減

仕事のしにくさからくるストレスは疲労感を増大させ、達成感もなく、労働者の健康問題だけでなく、生産性の低下や事故にもつながりかねません。
こうしたストレスが職場環境等の改善における改善対象になります。
 

職場の照明や温度などの物理環境や作業レイアウトも労働者の心理的なストレスの原因になることがあります。会議の持ち方、情報の流れ方、職場組織の作り方なども労働者のストレスに影響を与えます。職場環境等の改善を通じたストレス対策では、「職場環境」をより広く捉えることが大事です。

また、アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、次のとおり職場環境等の改善を通じたストレス対策のポイントを挙げています。
① 過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
② 労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
③ 仕事の役割や責任が明確であること
④ 仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
⑤ 職場でよい人間関係が保たれていること
⑥ 仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされていること
⑦ 職場での意志決定への参加の機会があること

3)事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等は、セルフケア及びラインによるケアが効果的に実施されるよう、労働者及び管理監督者に対する支援を行うとともに、次に示す心の健康づくり計画の実施に当たり、中心的な役割を担うことになります。
・具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
・個人の健康情報の取扱い
・事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
・職場復帰における支援、など

4)事業場外資源によるケア

・情報提供や助言を受けるなど、サービスの活用
・ネットワークの形成
・職場復帰における支援、など


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